大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和23年(ワ)711号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事実)

原告は、昭和十六年十二月十八日原告は北尻広一の親権者北尻絹子から本件建物等を買受けたが、登記手続が遅延している中、広一の亡父の兄である北尻亀吉が絹子に対し原告の為の登記手続を代行すると称し、白紙委任状等を交付せしめた上、絹子名義で被告と本件建物の売買契約を締結し、昭和二十二年十月十七日被告の為所有権移転登記をしたが、右登記は無効であると主張してその抹消登記手続及び建物の明渡を求めた。

被告は、絹子は広一の親権者として昭和十六年十二月六日本件建物等を大西隆雄に売渡し同人は原告に転売したが、絹子は右売買につき親族会の同意を得られなかつたので大西に対し取消の意思表示をなし原告にもその旨通知し、その後亀吉は絹子の委任に基き昭和二十二年八月一日本件建物等を福田武平に売却し、被告は同年九月五日福田から本件建物を買受けたのであつて、亀吉は絹子より預つた白紙委任状等を使用して売買契約及び登記手続に当つたもので正当な代理権を有したものである、仮にそうでないとしても福田及び被告としては亀吉が絹子を代理する権限があると信ずる正当の理由があると争つた。

原告は、民法第百十条は登記申請のみの受任者には適用すべきものではない、仮にそうでないとしても被告が未成年者である売主の親権者に直接面会せずまた原告が数年来本件家屋の賃料を取立てていたことを聞知しながら絹子及び原告と何等交渉しなかつたことには重大な過失があると主張した。

(判断)

原告敗訴。判決は先ず原告が広一の親権者絹子より本件建物等を買受けたこと、右売買取消の意思表示は代理権を有しない者によりなされたこと、亀吉が絹子の代理人名義で本件建物等を福田に売却しその直後福田がこれを被告に売却した結果亀吉が異議を唱え紛争の末本件建物については亀吉が転売を承認したこと、右売買は亀吉が代理権なくしてなしたこと、福田及び被告は亀吉が絹子の印鑑及び委任状を所持していることから代理権を有するものと信じていたことを認めた上、次のように判示した。

「民法第百十条の適用に関する被告の主張に付いて考えると、同条は代理権を持つ者が其の権限外の行為を為した場合に付ての規定であるから、全然代理権の無い者の行為に適用の無いことは勿論であるが、苟くも本人が他人に対し何等かの代理権を賦与した以上其の代理権の内容が私法上の法律行為の代理権である場合は勿論登記申請の如き行政庁に対する公法上の申請行為の代理権である場合に於ても取引の安全の保護を重要な理想とする民法第百十条の法意から考えれば其の適用を異にすべきでないと解するのが相当である。」

そして本件では福田は平穏裡に建物の引渡を受けたものであり、また原告が賃料を取立てていたことを被告が知つていたという証拠はなく、福田及び被告が亀吉に代理権ありと信ずる正当の事由があると判断した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!